読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ぷかりぼびんぐのDisco(mmunication)club

腐海を彷徨う海月が書きたいことを書きます。

アマチュアリズムの肯定-「背すじをピン!と」の感想文

「もうすっかり平気」なんてことは

多分ないと思う
魔法じゃないんだからこれからもそりゃ
不安になったり緊張したりするだろう
だけどこれからは
その不安や緊張は…
二人でわけるから
半分ずつだから
だから
大丈夫…!
(STEP21)

 

文化祭編が終わって、どうも打ち切りエンドじゃないらしい良かったぁ、で新入部員を迎えた時ももうかなり感動していましたが、
今回はやばかった。

Twitter

 

と呟いていたところ、普段よりも多くの反響をいただきましたので、まぁちょっと書ける範囲で書けることを書いてみようと思います。

 

現在ジャンプ連載中の「背すじをピン!と」
って、主人公は何も特殊能力を持っていないし、周囲の人も魔法を使える訳じゃない。
部長の土井垣真澄の家が辛うじて衣裳屋であるだけであって、それが作用するのは外面だけの問題。その衣裳を身に着けたからダンスが上手く踊れるようになるだとか五感が研ぎ澄まされてマイケルになれるとかそういったものではない。
主人公男女二人が「リーダー」「パートナー」それぞれの初心者の「記号」として描かれているとすら感じるほど、何も能力的に傑出した描き方はされていません。
一応大会が設定され、主人公男女二人の目標、というかテーマとして大会の「1次予選突破」という目標が度々明示されますが、少なくとも主人公男女二人には、現時点で「プロになりたい」「全国制覇」「高校生の頂点」という目標はありません。

 

先輩ペア2組が、所謂「任意の相手と戦い、勝ち続ける」という今までのジャンプ主人公の戦い方を背負っているように見受けられます。


(少なくとも今連載中の大会での)主人公ペアの「戦い」に対する考え方が示された例が

つちや「(僕だって別に勝負したくないわけじゃない
一次予選突破が目標だし一回ぐらいは勝ってみたい
(略)けど…)」
(略)
わたり「今日は 緊張もしてるけど どこまでやれるか ちょっと楽しみ…!ね」
(略)
つちや「(そういう考え方もあるよな…)」
(略)
僕らは僕らのやり方で、勝負(ダンス)する…!
(STEP29)

自分が仮に15-6歳だったとして、そこまで達観出来るか?と考えると主人公ペア大人過ぎじゃね!?と思わなくもないですが…
そして

つちや「僕らまだ その…先輩たちみたいな勝負はできないっていうか…」
(略)
八巻「当たり前だ!(略)誰もんなこと期待してねーっつーの!(略)強いて言うなら二か月前の自分に勝て!」

と発言があったのは翌週のSTEP30です。
この時点で、「(主人公ペア・またこの大会に関し、)予選を勝ち上がるかどうかで勝敗を競う話は書かない」と作者に宣言されていたのだと感じます。


「背すじをピン!と」は
これまでも、新キャラの一年生ひらりの入部理由などで「アマチュアリズムの楽しさ」を描いてきました。

「競技」ダンスの為に効率化された姿で描かれてきた宮大工君(STEP31で「まさにTHE社交ダンス」と評されています)。
これまでに「ジャンプ」が行ってきた「(他者との)勝負への価値観」の投影のような宮大工君が、その日の勝負では致命的とも言える開始15秒を犠牲にしてでも(STEP34)、つまり、勝負自体を一回分犠牲にしてでも「楽しさ」に向き合った。
これは大きなことだと思いました。

 

ざっくりいうと、の記述なので、真面目に取らないでいただきたいのですが、芸事と関わる接し方は
芸を披露する事で生計を立てるプロ、
芸を披露しつつアマチュアに教え生計を立てるレッスンプロ、
(時折芸に対する報酬を貰うかもしれないが)芸では生計を立てていないアマチュア、
の大体三つに分けられるのではないかと思います。
その中で、一般的に光が当たり、注目をされるのはプロの世界です。
プロの世界にお金を落とし、プロの世界を維持する為に一役買っているアマチュアの人口は、少なくともプロよりは多い。
アマチュアの世界にも、分野によっては・大会などで序列を付ける機能は働いていますが、その世界で「勝てる」人間は、例えばプロよりも多かったとしても、アマチュアの世界では一握りでしょう。
「プロになるかならないか」「プロにならなくても、相手との勝負に勝つか否か」今まで送り出されてきた物語で、汲み上げられて来なかったのは、それ以外の、「勝負に関わらないけれども、その分野を楽しんでいる」人たち、それを「背すじをピン!と」は描いたのではないでしょうか。

 

だからといって、同作品は、ジャンプの「努力」「友情」「勝利」に則らないのか。

私は否、と思います。ちゃんとそれがある。
「背すじをピン!と」の主人公は、自分と向き合い、「努力」し、そして自分に「勝利」する。それを見届ける他者との関係性に「友情」があります。

 

今後主人公ペアがプロを目指したり、突然覚醒して全国を目指したり制覇したりするかもしれません.。でも、だからといって、現在描かれているアマチュアリズムへの肯定感が薄れたり卑下されるようなことは無いでしょう。きっとそれは、ここで感じられた楽しさの上に積み上げられていくものだから。

魔法や特殊能力を持っていなくても、手を伸ばせば、誰にでも手が届く「肯定」がある(その「誰にでも」には、「私」も「あなた」も含まれているでしょう。)。そしてその物語が今、魔法や特殊能力を持って世界を救う物語と肩を並べジャンプに掲載されている。

実に優しく、衝撃的な事件です。